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政治家になりたい若者(後編)
by fano



さて、政治家になりたいグラウコンはソクラテスに呼び止められ、国家についていろいろ尋ねらたが、全く答えることができない。ソクラテスの質問はまだ続く。


「さて、わたしは君がまだ銀山を見に行ったことがないのを知っているから、なぜそこの産額が減じたのか言って聞かせることができないわけだ。」

「もとよりまだ見に行っていません。」

「実際また、あの地方は不健康地とだといわれているから、この問題について助言を与えなければならないときには、この事が十分君の弁解になる。」

「からかってはいけません。」

「しかし、次の事は君が注意を払い、そして研究していると信じる。すなわち、土地からあがる穀類はどのくらいの期間国家を養う力があり、また一年間にはどのくらいの分量が必要であるかを。こうしていざ国家が窮乏に陥ったとき、ぼんやりしていないで、食料資源に関する知識を傾けて国家に助言を与え、救助に赴いて、国を安泰ならしめようとしているにちがいない。」

「いやどうも、大変な大仕事をお話になる。こんな事まで研究しなくてはならないとしますと。」

「だがしかし、たとえ一つの家でも、必要なことをすべてわきまえ、そして一切に心を用いてこれを充たすようにしなければ、立派に治めることはできないだろう。しかるに国家は一万を超える家庭からなっており、その一つである叔父の家をまず富ませようと努めてみなかったのか。現にその必要があるのだ。もしこれができたなら、さらに多くに取りかかることができるのだ。一つの家の助けにもならないとしたら、どうしてたくさんの家の助けになれよう。」

「そりゃわたしも、叔父がわたしの言うことを聞いてくれさえしたら、いくらでも叔父の助けになれたのです。」

「何と、叔父を説き伏せることができないで、アテナイの全市民を叔父と一緒に説き伏せて、君の言うことに従わせ得るとかんがえるのか。グラウコン、名声を得んと望んでその逆に陥る危険がある。自分の知らぬことを言ったりすることが、どれほど危ないことであるか、君は知らぬではなかろう。もし君が国家において名声を博し、賞賛を得ようと欲するなら、、何よりもまず、行わんとすることの知識を完全にするようにつとめたまえ。そして君がこの点で他人より優れてから国事に携わるようにするならば、君がその望むことをやすやすと達しても、わたしは少しも不思議と思わないであろう。」


 

グラウコンはこの後どうやら、このむちゃな行動を止めたらしいです。

プラトンの家系はソロンにさかのぼる名家であり、裕福な家でした。そのような家の出身であれば、おそらく政治に関わりたいという思いは当然であったでしょう。ここの最後に出てくる叔父カルミデスは大変優れた人物であって、しかも、富裕でしたが、この時はこの富を失っていたようです。おもしろいことにこのグラウコンについての話の次にはカルミデスが優れた人物にもかかわらず、政治に関わろうとしていないのをソクラテスが政治に関わるように説得しているのです。この叔父と甥は性格も実力も全く反対であったようです。

いつの時代にもむちゃな若者はいるものだ。とおもわせるこのエピソードですが、いつの時代でも若いというのは野心的ではあるけれど、実力が伴っていないこともしばしばあります。そして、ギリシア人は実力が伴っていないと、その人物に野次を飛ばして、無理矢理壇上から引き摺り下ろします。くだらない演説など最後まで聞かないのです。この対話はいかにもグラウコンの未熟さが現れていて、おもしろい対話です。著者のクセノポンがこの場にいたのかどうかについてはわからないけれど、クセノポンはプラトンと同年輩であるから、グラウコンはよく知っていたでしょう。

ところで、ソクラテスは一家のこともきちんとできない様では国家を治めることはできないといいますが、これについてはペリクレスが家庭のことがボロボロにあったにもかかわらず、政治家としては成功しているので、あまり説得力がありませんが、この若者を説得するには成功したようです。

 

今回の文章は

クセノフォーン(佐々木理訳)「ソークラテースの思い出」岩波文庫、1953

の訳を一部省略たり、表現を変えて利用しています。正確な訳は上記の第三章の6を参照してください。













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