第三条 守護の職務 |
原文
一、諸国守護人奉行の事
右、右大将家の御時定め置かるる所は、大番催促・謀叛・殺害人(付たり。夜討・強盗・山賊・海賊)等の事なり。而るに近年、代官を郡郷に分(わか)ち補し、公事を庄保(しょうほ)に充て課(おお)せ、国司に非ずして国務を妨げ、地頭に非ずして地利を貪る。所行の企て甚だ以て無道なり。
抑(そもそも)重代の御家人たりと雖も、当時の所帯無くば駆り催すに能はず。兼ねて又所々の下司庄官以下、其の名を御家人に仮り、国司・領家の下知(げじ)を対捍(たいかん)すと云々。然るが如きの輩(ともがら)、守護役を勤むべきの由、縦(たと)ひ望み申すと雖も、一切催を加ふべからず。
早く右大将家御時の例に任せて、大番役ならびに謀叛・殺害の外、守護の沙汰を停止(ちょうじ)せしむべし。
右大将家:頼朝のこと。頼朝は1190年に権大納言右近衛大将に任命された。
大番催促:守護が、皇居を守護する京都大番役に、国内の御家人を動員すること。守護の重要な職務である大犯三ヶ条の一つ。
公事:年貢以外の雑税と労役
庄保:荘園と公領
所帯:所有している財産や所領
対捍:逆らい拒否すること |
訳
一、諸国守護人の職務・権限について
このことについて、右大将家(源頼朝)の時代に決められたのは、大番役の催促、謀叛人・殺害人(夜討ち・強盗・山賊・海賊を付け加える)の逮捕などの事柄である。ところが近年、守護は代官をそれぞれ郡郷に任命して、夫役や雑税を荘園や公領に課し、国司でもないのに国政を妨げ、地頭でもないのに土地からの収益をむさぼっている。このような行為は甚だしく道理からはずれている。
そもそも、代々御家人であった者でも、現在知行する所領がなければ御家人として催促することはできない。また、そこここの下司・荘官らが御家人の名をかたり、国司・領家の命令に逆らっているという。こういうような連中が、守護役を勤めたいと、たとえ望んできたとしても、決して召集してはいけない。
早く頼朝公の頃の例にならって、京都大番役と謀反人・殺害人の逮捕以外の守護の関与を禁止する。 |
解説
ここでは大犯三ヶ条と呼ばれる内容を含む守護の本来の職務をあきらかにしています。この条文は、次の第五条の地頭の年貢拘留の禁止などとともに、当時横行していた武士による荘園・公領の侵略を阻止する狙いがありました。
泰時は武士の代表として、朝廷に配慮をしたわけですね。
ちなみに守護というのは、単にその国の御家人を管理するだけで、後の守護大名ほどの権限も領地もありませんでした。 |